2022-01-01から1年間の記事一覧
古川日出男『天音』(Tombac、2022) 音とともにある旅の詩だ。この詩――古川日出男による初の詩作品にして長編詩――のタイトルはどう読むか。「てんおん」で間違いないと思う。「天音」が「てんおん」であるのには理由がある。引用しよう(文字の置き方まで熟…
マーガレット・ウィルソン『アイスランド 海の女の人類学』(向井和美訳、青土社、2022) 海を進む漁船を想像してみる。そこに乗っているのは誰だろう。みな男性? なぜそう思ったのだろう。そう思う事態に<なっている>のだろう。 アイスランドで船長とし…
Adrian Tomine, Intruders. (Faber Stories, 2019.) セリーヌ・シアマが脚本で加わっているジャック・オーディアール監督『パリ13区』を非常におもしろく見たが、まず冒頭でアッと思った。原作にエイドリアン・トミネの名がある。アメリカのコミックスが、部…
『《清須市ゆかりの作家》阿野義久展 生命形態—日常・存在・記憶—』 最初の展示室に足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのは巨大な彫刻作品だ。壁に設えられたガラスケースに、標本さながらに展示されたそれは、〈作品A〉〈作品B〉とそっけなく名付け…
神本秀爾/河野世莉奈/宮本聡編『ヒューマン・スタディーズ——世界で語る/世界に語る』(集広舎、2022) 知っているつもりで知らないことというのは無数にある。そのことを繰り返し思い出させてくれる本だ。 本書には、主に人文社会科学の分野で活躍する書…
野村宗弘『のんびりヌルントゥルン(上、下)』(実業之日本社、2020) 「ヌルントゥルン」の意味にたどりつくまでが旅だ。東京からやってきた駆け出し写真家、カバ顔の大山くん。何も知らなかった沖縄で一歩ずつ人々の生活と心に近づいていく。おばあの手の…
『東北へのまなざし1930-1945』展 1 2つの含意 『東北へのまなざし1930-1945』というタイトルには2つの含意がある。1つ目はまなざす主体が想定されているということで、これは本展覧会で提示される東北があくまでも、特定の主体によってまなざされた<東…
陳耀昌『フォルモサに吹く風 オランダ人、シラヤ人と鄭成功の物語』(大洞敦史訳、東方書店、2022) 台南で経営していた蕎麦屋に、ある日珍しいほど鼻筋と頬骨の目立つ年配の紳士が来られ、2冊の著書をくださった。『福爾摩沙三族記』『島嶼DNA』という。前…
桂さんは新聞記者ですね。経済新聞の文化部という、ちょっと変わった位置にいらっしゃるのかと思うのですけれど、どんなことを考えながらやっていらっしゃいますか。 経済新聞だから、という意識はあんまりないんですよ。そもそも私自身、経済新聞らしいこと…
さくらももこ『またたび』(新潮文庫、2005) 『ちびまる子ちゃん』が一世を風靡していた時代ずっと日本にいなかった。出会ったのは作者のさくらももこさんが亡くなってからで、むちゃくちゃにおもしろい漫画だと思った。小学生の普遍=不変の体現なりき。先…
波戸岡さん、本屋さんによく行くでしょ? しかもお子さんたちを連れて。目的はなんでしょうか。 図書館でいっぱい借りてくるということを、子供がちっちゃいときはよくやってたんですけど、本屋さんに行くということは、まずは背表紙を見にいくことだと思う…
真木悠介『南端まで——旅のノートから 定本 真木悠介著作集 IV』(岩波書店、2013) 「南端」とはどのような場所だろう。その言葉から人がイメージするのはどのような風景か。本書を手に取ってまず目を引かれるのは、エッセイのページとページのあいだに挿入…
田河水泡『少年漫画詩集』(教育評論社、2021) 「漫畫の犬が抜け出して/肉屋の前にいるなんて/そんなばかげたことはない/君の目玉の間違いと/皆んなは僕を笑うけど/あれは確にのらくろだ」そんな詩行を含む詩のタイトルは「のらくろ」。おなじみの白黒…
斧原孝守『猿蟹合戦の源流、桃太郎の真実——東アジアから読み解く五大昔話』(三弥井書店、2022) 昔話は流動する。そのことを教えてくれる好著だ。「はじめに」で著者は次のように書く。 本書は「猿蟹合戦」をはじめ、「桃太郎」・「舌切り雀」・「カチカチ…
テッサ・モーリス=鈴木、大川正彦訳『辺境から眺める アイヌが経験する近代』(みすず書房、2000、新装版2022) 東日本大震災の後、「絆」という字が、被災地域への連帯を示すための言葉としてテレビによく映し出されていた。すかさず別のだれかが、「絆」…
佐々木さんは画家ですけれど、少し前から木彫をさかんに作っていらっしゃいますね。 2017年からですね。ちょうど5年。 どういうきっかけで作りはじめたんですか。 母が木彫作家だったんです。小さいころ、母が制作しているのをずっと横で見ていて、私も彫っ…
高良勉編『山之口貘詩集』(岩波文庫、2016) 詩は何を題材としてどんな語法で書いてもいい。できあがった言葉の配列が生む光景にどんな光がさすかだけが問題だ。ここに記されている言葉は言葉として真実だと信じられるかどうか。言葉そのものが唸りを発する…
左右社の編集者、東辻さんです。ティム・インゴルドやレベッカ・ソルニットの翻訳書をはじめ、人文系のよい本をたくさん作っていらっしゃいます。東辻さん、旅行がお好きですよね。 はい。 ぼくが以前にアルバニアに行ったとき、アルバニアに行った人なんて…
ミネソタ州のマカレスター・カレッジで日本文学を教えているアーサー・ミッチェルさんです。研究のために日本に滞在中です。今回は、日本に何か月いらっしゃいましたか? ちょうど6か月です。 各地を旅行されたと思いますが、何か新しい発見はありましたか…
浪川健治『北の被差別部落の人々——「乞食」と「革師」』(解放出版社、2021) 近世日本の北域に位置する弘前藩。幕藩制国家のシステムに貫かれた空間。18世紀末の弘前城下には、長助と呼ばれる黒地の羽織を纏う人物がいた。羽織の背には白い「かんじき」の紋…
イリナ・グリゴレ『優しい地獄』(亜紀書房、2022) この本についてはいずれもっと長く書くつもりだが今は引用から始める。「桜が枯れた冬、木を薪にして暖炉にくべた。木の声が聞こえた。歌っていると思った。私が子供の時に歌っていたのと同じ歌。そして匂…
堀江敏幸+大竹昭子『新しい自我』(カタリココ文庫、2022) 大竹昭子さん発行の冊子シリーズ「カタリココ文庫」の新刊は堀江敏幸さんとの対話。のみならず堀江さんがかつて発表した、かなりの長さのある詩3篇の連作も収録されていて大変に読みごたえがある…
水木プロダクション<作>村澤昌夫<画>『水木先生とぼく』(角川文庫、2022) 漫画というジャンルのもっとも直接的な魅力は絵にある。そして漫画家が漫画家になるのは、その人ならではのまぎれもない絵が生まれたときだろう。ひとコマ見ればその人の作品と…
大橋幸泰『潜伏キリシタン——江戸時代の禁教政策と民衆』(講談社学術文庫、2019) 2018年に「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」がユネスコの世界遺産に登録されたことによって、潜伏キリシタンに対する世間の関心は高まった。しかし、関心が高まると…
ひとり出版社コトニ社の後藤亨真さんです。その「文庫手帳2022」って何ですか。 ああ、これは筑摩書房が毎年出している文庫サイズのスケジュール帳で、たいして大きくないのでいろいろ書き込むことはできないのですが、ぼくくらいの仕事量にはちょうどいいん…
きょうは撮影をありがとうございました。はぎさん、写真の修行みたいなことは、どういうふうにされたんですか。 師匠【舞山秀一さん】に3年ついて、独立して今年9年目です。 撮るのはもっぱら人物ですか。 そうですね。人物がほぼほぼメインです。 ずいぶん…
山田七絵編『世界珍食紀行』(文春新書、2022) 「強烈な獣臭さが脳天を貫く」「なぜか動物園の味がするのだ」これはインドネシア中部ジャワ州で牛の鼻のサテを食べた土佐美菜実さんの感想。世界のどこでも土地には土地の食べ物があり、料理実践をめぐる驚き…
小沼さんはライターのお仕事をされていますね。いちばんご興味のある分野は何でしょうか。 けっこういろんなことでライターをやっているんですけれど、いちばん興味があるのは本の分野ですね。 でも「本」てすごく広いじゃない。 はい(笑)。 本の中ではど…
赤瀬川原平『四角形の歴史』(ちくま文庫、2022) 哲学絵本と呼ぶべきか。天才の思索の凝縮力に戦くしかない一冊。なぜヒトは風景を眺めるのかという問いからはじまって、風景を生むことになった風景画、その絵を生むことになった四角い窓枠の存在を考えるう…
橋本和也『旅と観光の人類学——「歩くこと」をめぐって』(新曜社、2022) 本書はCOVID-19の流行によって顕わになった「旅」の難しさを「『旅/観光』のハイブリッド」という提案を通じてときほぐす試みといえるだろう。その際、著者はイギリスの人類学者ティ…