ミネソタ州のマカレスター・カレッジで日本文学を教えているアーサー・ミッチェルさんです。研究のために日本に滞在中です。今回は、日本に何か月いらっしゃいましたか?
ちょうど6か月です。
各地を旅行されたと思いますが、何か新しい発見はありましたか。
はい。ありすぎて!
ではひとつずつ伺いましょう。九州では何を?
まず大分県に行って、立命館APU(アジア太平洋大学)で教えている二人の先生に会ったんです。ここは別府という有名な温泉地にある大学ですが、アジア各国の優秀な学生たちを集めている。インターナショナリズムを謳っていますけれども、アメリカ、カナダや西ヨーロッパが中心になるグローバリズムとはちがって、東アジア・東南アジアとの交流を強調している。こっちも視野がひろがりました。
水俣にも行かれましたね。
はい。水俣で印象に残ったのは企業とか政府に反対する精神です。人の命を優先しない企業の方針などと戦う精神。その精神は、環境問題はもちろん、いろいろな面で現れるのですが、経験に基づいた意識、自分の生きてきたモラルに根付いている意識として、独特で感動的なものがありました。ただのイデオロギーではない。
他にはどこに行きましたか。
熊本ですね。熊本城に行きましたし、レストランで鉄板焼きを食べました。
馬肉は?
馬肉はちょっと避けました(笑)。
北海道の旅からは、帰ってきたばかりですね。ウポポイはどうでしたか。
アイヌという民族の表象の問題をそのまま再現した場所のような気がして、ぜんぶパーフェクトではなかったけれども、問題の複雑さはきちんと感じられました。
場所は大変にいいところみたいですね。
場所はとてもきれいで。最初にアイヌの伝統の踊りと楽器の演奏を見たのですが、その演奏をする人たちが初めに挨拶をするとき説明してくれたのは「私たちがいま着ているのは特別な儀式のための服で、ふだんの生活でこれを着ているわけではない」ということでした。この説明も、いろいろな意味を暗示していると思います。なぜ伝統的な服を着ないとアイヌとして見られないのか。その矛盾もおもしろい発見でした。
まもなくミネソタに帰国されますね。今回の日本滞在で、これからの研究の方向が変わると思いますか。
前からとりくみたかった課題は変わりませんが、今回考えるようになったのは「視点」の問題です。私はずっと学者としてのトレーニングを受けてきました。学者というものは過去のものごとを研究する、図書館に入り資料を調べ過去の知識や歴史を学んでそれを人々に報告する仕事だ、というふうに訓練されてきたんですけれども、今回、それに限らず、学者だっていま起こっていること、いまの問題にもむかうべきだと強く思いました。過去の資料はあくまでも資料であり、手段。それをいまの問題にあてはめる、応用することも学者の役割だと。今回、そういう考え方を身につけたと思います。