Coyote Reading

明治大学大学院<総合芸術系> 管啓次郎研究室の書評ブログ

ヌルントゥルンの意味を知るまで【評=管啓次郎】

野村宗弘『のんびりヌルントゥルン(上、下)』(実業之日本社、2020)

 

「ヌルントゥルン」の意味にたどりつくまでが旅だ。東京からやってきた駆け出し写真家、カバ顔の大山くん。何も知らなかった沖縄で一歩ずつ人々の生活と心に近づいていく。おばあの手の甲のハジチとか、のどに刺さるスクガラスとか、薩摩が攻めてきたとき戦場になった天川坂(あまかーびら)とか、ひーじゃー汁をめぐる少年のトラウマとか、米兵とばかり遊ぶ「アメ女」女子高生とか、「いんちき」という言葉の独特な使い方とか(それすごくいい、うらやましい)。いやみのない挿話を読んでいくうちに、すっかり沖縄気分に染まる。基地の中のアメリカの大学に進学することを夢見ている子がいるが、ほんとにあるのかと思ったら何のことはない、ぼくの母校トロイ大学も開講していた。とにかく知っておきたいトリヴィアばかり。絵も慣れればかわいく見えてくる。そして最終ページでヌルントゥルンの意味が明かされ、じんわり感動する。これは、いんちき。楽しめた。