Coyote Reading

明治大学大学院<総合芸術系> 管啓次郎研究室の書評ブログ

無意味を夢見るまえに【評=管啓次郎】

赤瀬川原平『四角形の歴史』(ちくま文庫、2022)

 

哲学絵本と呼ぶべきか。天才の思索の凝縮力に戦くしかない一冊。なぜヒトは風景を眺めるのかという問いからはじまって、風景を生むことになった風景画、その絵を生むことになった四角い窓枠の存在を考えるうちに、足元がふわりとゆらぐ。そもそも四角形とは何か。それは自然界にはない。ところが人間社会にはそれがあふれかえっている。窓、机、引き出し、ノート、紙幣、畳。赤瀬川さんはその形のはじまりを列に見る。物が並ぶと列。しかし肝心なのはそれが二列目に達するときだと彼はいう。「最初の列はいやおうなくのものだが、二列目は、列の模倣である。頭は何かを模倣したとき、そのものの性質をつかむ。」そして「整理の理が、合理の理に繋がりながら、四角形は文明の基本となっていった。」なるほど。スクエア嫌いの対抗文化のプリミティヴィズムに、これで話がつながった。15分で読める本だが、人類史の往還を強いられる。総合芸術特論の教科書に指定。