Coyote Reading

明治大学大学院<総合芸術系> 管啓次郎研究室の書評ブログ

その鍵? 捨てなさい【評=管啓次郎】

Adrian Tomine, Intruders. (Faber Stories, 2019.)

 

セリーヌ・シアマが脚本で加わっているジャック・オーディアール監督『パリ13区』を非常におもしろく見たが、まず冒頭でアッと思った。原作にエイドリアン・トミネの名がある。アメリカのコミックスが、部分的には素材になっているのか。トミネの本はもっているはずだがなかなか見つからず、すぐ出てきたのはFaber Storiesというポケット版で出ている Intruders (侵入者たち)だった。すぐれた小説シリーズの中の1冊。読んでいなかったのですぐ読んでみた。おもしろい。戦場から帰ってきた孤独な男が、自分がかつて住んでいたアパートを訪ねてみる。古い鍵を使うと、問題なく開いた。大家の怠慢のせいだが、これが「事件」につながる。事件といえるほどの事件? 何ともいいがたいが、話はエスカレートする。やがて。81枚の1コマ漫画に、ここまでの表現力があるのか。本作がささげられているのは辰巳ヨシヒロ。たしかに画風が似ているかも。漫画と映画こそ姉妹芸術と呼ぶべきか。