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明治大学大学院<総合芸術系> 管啓次郎研究室の書評ブログ

2022-08-01から1ヶ月間の記事一覧

「地球がゆれていた」【評=管啓次郎】

高良勉編『山之口貘詩集』(岩波文庫、2016) 詩は何を題材としてどんな語法で書いてもいい。できあがった言葉の配列が生む光景にどんな光がさすかだけが問題だ。ここに記されている言葉は言葉として真実だと信じられるかどうか。言葉そのものが唸りを発する…

立ち話12 東辻浩太郎さん(編集者)

左右社の編集者、東辻さんです。ティム・インゴルドやレベッカ・ソルニットの翻訳書をはじめ、人文系のよい本をたくさん作っていらっしゃいます。東辻さん、旅行がお好きですよね。 はい。 ぼくが以前にアルバニアに行ったとき、アルバニアに行った人なんて…

立ち話11 アーサー・ミッチェルさん(日本文学研究)

ミネソタ州のマカレスター・カレッジで日本文学を教えているアーサー・ミッチェルさんです。研究のために日本に滞在中です。今回は、日本に何か月いらっしゃいましたか? ちょうど6か月です。 各地を旅行されたと思いますが、何か新しい発見はありましたか…

「北」の眼差し【評=中村絵美】

浪川健治『北の被差別部落の人々——「乞食」と「革師」』(解放出版社、2021) 近世日本の北域に位置する弘前藩。幕藩制国家のシステムに貫かれた空間。18世紀末の弘前城下には、長助と呼ばれる黒地の羽織を纏う人物がいた。羽織の背には白い「かんじき」の紋…

私の中の一本の桜【評=管啓次郎】

イリナ・グリゴレ『優しい地獄』(亜紀書房、2022) この本についてはいずれもっと長く書くつもりだが今は引用から始める。「桜が枯れた冬、木を薪にして暖炉にくべた。木の声が聞こえた。歌っていると思った。私が子供の時に歌っていたのと同じ歌。そして匂…

「ふつう」をつづければいい【評=管啓次郎】

堀江敏幸+大竹昭子『新しい自我』(カタリココ文庫、2022) 大竹昭子さん発行の冊子シリーズ「カタリココ文庫」の新刊は堀江敏幸さんとの対話。のみならず堀江さんがかつて発表した、かなりの長さのある詩3篇の連作も収録されていて大変に読みごたえがある…

影が描く絵に魅せられて【評=管啓次郎】

水木プロダクション<作>村澤昌夫<画>『水木先生とぼく』(角川文庫、2022) 漫画というジャンルのもっとも直接的な魅力は絵にある。そして漫画家が漫画家になるのは、その人ならではのまぎれもない絵が生まれたときだろう。ひとコマ見ればその人の作品と…

外側と内側から見る潜伏キリシタン【評=中野行準】

大橋幸泰『潜伏キリシタン——江戸時代の禁教政策と民衆』(講談社学術文庫、2019) 2018年に「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」がユネスコの世界遺産に登録されたことによって、潜伏キリシタンに対する世間の関心は高まった。しかし、関心が高まると…

立ち話10 後藤亨真さん(出版社コトニ社代表)

ひとり出版社コトニ社の後藤亨真さんです。その「文庫手帳2022」って何ですか。 ああ、これは筑摩書房が毎年出している文庫サイズのスケジュール帳で、たいして大きくないのでいろいろ書き込むことはできないのですが、ぼくくらいの仕事量にはちょうどいいん…

立ち話9 はぎひさこさん(フォトグラファー)

きょうは撮影をありがとうございました。はぎさん、写真の修行みたいなことは、どういうふうにされたんですか。 師匠【舞山秀一さん】に3年ついて、独立して今年9年目です。 撮るのはもっぱら人物ですか。 そうですね。人物がほぼほぼメインです。 ずいぶん…

牛の鼻をかじってみたら【評=管啓次郎】

山田七絵編『世界珍食紀行』(文春新書、2022) 「強烈な獣臭さが脳天を貫く」「なぜか動物園の味がするのだ」これはインドネシア中部ジャワ州で牛の鼻のサテを食べた土佐美菜実さんの感想。世界のどこでも土地には土地の食べ物があり、料理実践をめぐる驚き…

立ち話8 小沼理さん(ライター)

小沼さんはライターのお仕事をされていますね。いちばんご興味のある分野は何でしょうか。 けっこういろんなことでライターをやっているんですけれど、いちばん興味があるのは本の分野ですね。 でも「本」てすごく広いじゃない。 はい(笑)。 本の中ではど…

無意味を夢見るまえに【評=管啓次郎】

赤瀬川原平『四角形の歴史』(ちくま文庫、2022) 哲学絵本と呼ぶべきか。天才の思索の凝縮力に戦くしかない一冊。なぜヒトは風景を眺めるのかという問いからはじまって、風景を生むことになった風景画、その絵を生むことになった四角い窓枠の存在を考えるう…

観光から「旅/観光」へ【評=林真】

橋本和也『旅と観光の人類学——「歩くこと」をめぐって』(新曜社、2022) 本書はCOVID-19の流行によって顕わになった「旅」の難しさを「『旅/観光』のハイブリッド」という提案を通じてときほぐす試みといえるだろう。その際、著者はイギリスの人類学者ティ…

立ち話7 鞍田崇さん(哲学者)

鞍田さん、東京にいらしたのいつでしたっけ。 2014年です。もう8年ですから、大学を2回卒業した感じ(笑)。 関西圏と関東圏、雰囲気もちがうし人間関係もちがうと思うのですけれど、どうですか、そのあたりは? もともと関西は町の規模が小さいので、一人の…

立ち話6 山本洋平さん(環境文学)

山本さんは環境文学の研究者ですね。「自然活動」というか(笑)、山に歩きにいくとか海に泳ぎにいくとか、そんなこともお好きなんですか。 好きですね。いまは特にシュノーケリングをやってます。海亀が、いろんなところのアバターに使っているくらい好きで…

立ち話5 倉石信乃さん(美術史、写真批評)

同僚の倉石さんは元横浜美術館の学芸員で、2007年に明治理工に美術史担当として来ていただきました。北海道の「写真の町東川賞」の審査員を務めていらっしゃいます。今年もそろそろ東川にいらっしゃるんでしたっけ? 東川、明日です。 東川町って、ぼくはイ…