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明治大学大学院<総合芸術系> 管啓次郎研究室の書評ブログ

清水発世界行き、というか【評=管啓次郎】

さくらももこ『またたび』(新潮文庫、2005)

 

『ちびまる子ちゃん』が一世を風靡していた時代ずっと日本にいなかった。出会ったのは作者のさくらももこさんが亡くなってからで、むちゃくちゃにおもしろい漫画だと思った。小学生の普遍=不変の体現なりき。先日、新幹線に乗るまえに何か文庫本を買おうと思ったら、書店でこの本が呼びかけてきた。なんだこの鋭いデザインの表紙は。パラパラと見るとカラー写真もイラストもあってバチバチ稲妻が走っている。あ、ソビーのデザインか、道理で。祖父江慎さんはぼくの旅仲間。それから本文を読んでゲラゲラ笑った。この本はさくらももこの旅日記だ。旅は短い観光旅行ばかりだが、彼女の語りがありきたりな体験を天上の光でみたす。まったくどうでもいいエピソードが聖人伝としか思えなくなる。すさまじい文章力。ゆっくり読んでも45分もかからないが、移動する自分の肉体を置き去りにして別の時空をさまようことになる。これでこそ旅する本。読んでみるといいよ。