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明治大学大学院<総合芸術系> 管啓次郎研究室の書評ブログ

立ち話13 佐々木愛さん(美術家)

 

佐々木さんは画家ですけれど、少し前から木彫をさかんに作っていらっしゃいますね。

 

2017年からですね。ちょうど5年。

 

どういうきっかけで作りはじめたんですか。

 

母が木彫作家だったんです。小さいころ、母が制作しているのをずっと横で見ていて、私も彫ったりしてたんですけれど、たぶん最後に彫ったのが小学校4年か5年くらいで。私が彫ったやつを母が勝手に直したんですよ。

 

むむ。

 

それで大げんかして(笑)。それからいっさい彫らなくなったんですけど、父が病気になったんです。自宅で母とふたりで看ることになって、24時間体制みたいになってたんですよね。看護師さんやヘルパーさんが来てくれるときには私は自分の仕事で外に出ていたんですけれど、母は出られなくなっちゃって、ずっと家にいる。それで何かふたりでできることがないかなと考えて、ちょうどそのとき黒部市美術館での個展が控えていたので、木彫を私が作って、仕上げを母にやってもらうという名目で、気晴らしじゃないけど何かを一緒にやって、ちがう時間を母と共有したいというのがはじまりでした。

 

それはすばらしいですね。木彫では木の抵抗感というか、絵とはぜんぜんちがう話かと思うのですが。

 

ああ、でも私の木彫は表面しか彫ってないレリーフなんですよね。だから絵画に近いし、レリーフは私、壁画でずっとやっていたので。

 

完全に連続している?

 

そうなんです。だからぜんぜん抵抗もなく。

 

モチーフとして、木彫だからこれをやりたい、みたいなものはありましたか。

 

木彫を思いついたきっかけのもうひとつは、今年まで借りてた京都のスタジオが古い3階建ての工場跡なんですけど、1階に家具職人の方が入ってて、その方がちょっと変わった装飾的な家具を作っていらして、すごく変わったかたちの木端がたくさん出るんですね。会社を定年退職してから家具職人になった方なので、工房はまだ始められたばかり。端材がたくさん出るんですが、すごく変わったかたちのものがあって、そのかたちがおもしろいなと思って、もらうことにしました。だからかたちは自分では一切いじってないんです。拾ったままで表面しか彫っていない。

 

ああ、なるほど。

 

壁画を作るときも、どこかに滞在してその場所のかたちに合わせて作るということをずっとやっていたので、違和感なく、ああ、壁画と似てるなと思って。そのあともあまり動けない時期があったじゃないですか。世間的にもそうだし、家庭の事情的にもあまり動けなかったのが、うまい具合にリンクして、木彫が楽しく始まった感じです。

 

木という素材の魅力はもちろんなのですが、その背後には森の魅力、樹木の魅力があると思うんですよ。森というのは佐々木さんにとってはずっとすごく大きなテーマだったし、ぼくが佐々木さんに似合うなと思う国はフィンランドだったりニュージーランドだったりもして、まさに森の国ばかりなんですけれども、森に対する特別な気持ちはありますか。

 

小学校2年生まで住んでいたところの裏が山だったし、いまの実家もすぐ横が府営の森なんですよね。木の近くにずっといるというのが自然だったのかな。枝のかたちなんかをずっと見ているのが好きだというのがあって。なんでしょうね、私にとって森は(笑)。

 

森と、鳥かな。このあいだも伊丹空港の中央ブロック2階にある渡り鳥たちの壁画を見ましたが、やっぱりすごくいいですね。しばらく見とれました。

 

白一色だから、あんまりみんな気がつかないのかなと。

 

いえいえ、見ているだけで心が洗われますし、よく見ていると立ち止まって見る人、何人もいますよ。シュガー・ペインティングはまたやるんですか。

 

やりたいですね。けっこう長くかかるので時間がとれないときにはできなくて。またとれるようになったら、どこかに行って滞在制作をしたいです。