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明治大学大学院<総合芸術系> 管啓次郎研究室の書評ブログ

牛の鼻をかじってみたら【評=管啓次郎】

山田七絵編『世界珍食紀行』(文春新書、2022)

 

「強烈な獣臭さが脳天を貫く」「なぜか動物園の味がするのだ」これはインドネシア中部ジャワ州で牛の鼻のサテを食べた土佐美菜実さんの感想。世界のどこでも土地には土地の食べ物があり、料理実践をめぐる驚きはつきない。せいろで蒸してから一夜干しにするプラートゥーというかわいい魚(タイ)、ムンバイの中華料理店が開発したなぜかマンチュリアンと呼ばれる菜食料理、24時間営業の店が出すトルコの臓物スープ、洗車が仕上がるのを待ちながら肉を焼いてもらって食べる南アフリカのブラーイ。ブラジルのことなら少しは知っているつもりのぼくが知らなかったのはペキーという料理に使う果実で、用心して食べないと口の中が棘だらけになる。笑い泣きと隣合わせの現場の体験談が披露される本書は、アジア経済研究所の研究者たちによる連載をまとめたもの。現地で生活する研究者の日常を思いつつ楽しく読める。知らない土地と味を想像する小さな旅に出てみよう。