Coyote Reading

明治大学大学院<総合芸術系> 管啓次郎研究室の書評ブログ

2023-02-01から1ヶ月間の記事一覧

辺境のキュクロプス【評=林真】

丹下和彦『ギリシア悲劇の諸相』(未知谷、2023) 書名だけ見て、難解な研究書だと身構えないでほしい。本書の内容はいたって簡潔だ。ギリシア悲劇(および後述するサテュロス劇)から数篇が選ばれ、それぞれについての概要が語られ、解説が加えられる。同じ…

獣脂にすっぽり被われて【評=管啓次郎】

ホメロス『イリアス』(松平千秋訳、岩波文庫、1992) ホメロスの叙事詩『イリアス』を初めて読んで、びっくりすることばかりだった。とにかく血腥い。殺し合いの連続。古代ギリシャでは神々は死なず人間は死ぬのが大原則だが、たちの悪い神々は人間に殺し合…

言葉に操られて【評=中野行準】

大竹伸朗『見えない音、聴こえない絵』(ちくま文庫、2022) 大竹伸朗の言葉はおもしろい。ありふれた言い回しでは語り難いなにかを、あるときは造語によって、あるときは思いもよらない語の連結によって表現する。目次をさっと眺めてみるだけでもそのことが…

無数の星の散る夜をしのぶとすれば【評=中村絵美】

赤坂憲雄『〈災間〉に生かされて』(亜紀書房、2023) 書店で一際目を引く本が、本書だった。まず色が良い。とても鮮やかな黄と青が基調だ。そして二色の境目に綺麗なぼかしが入っている。カバーを外してみると中の表紙は淡い黒で、小さな無数の灰色の点が、…

津軽に生きる画家【評=中村絵美】

佐藤あい佳編『季刊あおもりのき 2023新年・冬号・第11号(通巻273号)』(ものの芽舎、2023) 青森市発の文化誌『季刊あおもりのき』の最新号は、津軽の画家・櫻庭利弘特集だ。この号は、青森県立美術館の冬の常設企画展として「デモシカ先生の絵画道(かい…