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明治大学大学院<総合芸術系> 管啓次郎研究室の書評ブログ

2023-09-01から1ヶ月間の記事一覧

「支払われない労働」の重量差【評=大洞敦史】

I. イリイチ『シャドウ・ワーク 生活のあり方を問う』 (玉野井芳郎/栗原彬訳、岩波現代文庫、2006) 台湾の人に、東京出身だと自己紹介すると、7割くらいの確率で「便利な町ですよね、いいなあ」などと言われる。 「必ずしもそうではないですよ。満員電車…

世のすべての才人が顔色を失なう才人の文章力のかけら【評=管啓次郎】

『伊丹十三(人と物 8)』(無印良品、2018) MUJI BOOKSを初めて買った。150ページほどの文庫本、定価500円。興味深い著者が並んでいるが買ったのは伊丹十三。なつかしい。高校生のころ、『ヨーロッパ退屈日記』や『日本世間噺体系』を愛読した。ひとことで…

虚懐を抱き、秋聲をきく【評=中野行準】

藤枝静男『虚懐』(講談社、1983) 虚(虛)という字の下部は丘の形をしている。丘には都があり、神聖な建物や墓地があった。それが荒れ果てたのが廃墟で、虚はもともと廃墟を意味する。そこから、現存しないことの意味になり、虚しいことや嘘を意味するよう…