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明治大学大学院<総合芸術系> 管啓次郎研究室の書評ブログ

浅間山の大噴火がフランス革命をひきおこした?【評=管啓次郎】

青山誠『ウソみたいだけど本当にあった歴史雑学』(彩図社、2021)

 

 旅先の本屋でつい買って、移動中にさらりと読んでしまった。雑学の宝庫、それは歴史。知らないこと、思い違いをしていたことはたくさんあるものだ。202のトリビアが扱われ、配分(日本史、西洋史、東洋史)がいいのでまったく飽きない。いくつか例を記す。西郷隆盛は象皮病で睾丸が巨大に腫れあがっていた。平賀源内は殺人罪で獄中死した。ベジタリアンのヒトラーは納豆が好きで兵士たちへの食糧として研究させた。江戸時代の大名の7割が愛知県出身。日露戦争の戦費調達のための借金は返済に80年かかった。かつてペストやコレラが流行するたび予防薬として子供までもが煙草を吸わされた。戦国時代の日本は世界の鉄砲の3、4割を所有する軍事大国だった。日本は朝鮮戦争に参戦していた(国連軍のための掃海作業は戦闘行為とみなされる)。「容疑者」という新語がはじめて使われたのは田中角栄に対して。


 どうも戦争関係の話題が多いが、さらにいくつか。ドイツが第一次大戦の賠償金をすべて払い終えたのはやっと2010年。ジハードを「聖戦」と訳すのは誤りでそれはもともと神の道において「奮闘」せよということ、誤った好戦的イメージは払拭する必要あり。「天高く馬肥ゆる秋」の元の詩行は「雲浄妖星落 秋高塞馬肥」(杜審言)で「禍々しい災いが迫っている。肥えて大きな馬に乗った北方の異民族がやってくるから警戒しろ」という意味だったそうだ。マゼランがじつは世界一周を達成していないこと(太平洋横断成功後、ある島で住民たちに毒矢で殺された)はいわれてみればそのとおり。義経=チンギス・ハン説を考案したのがシーボルト先生だったのも興味深いが、台北は台湾の首都ではないこと、古代エジプトではハイエナが狩猟用にも食用にも飼われていたこと、イギリスが本気で氷を素材とした船艦を試作したこと、幕末に上総請西藩の藩主・林忠崇は新政府軍と戦うためにみずから脱藩したこと、東京タワーの3分の1は朝鮮戦争に配備されたのち鉄屑として払い下げられた米軍戦車でできていることなど、事実はたしかに想像をはるかに凌駕している。


 なかでも覚えておこうと思ったのはmafiaという言葉の語源。Morte alla Francia Italia anela (フランスの死をイタリアは望む)とはフランスの圧政に苦しんだシチリアの島民たちの誓いの言葉だった。数年前から英語の授業にトリビアを取り入れているが、いくつかは使えそう。自然科学系の話題でこんな本があると、いっそうありがたい。